じっとしているのに滴り落ちるほどの汗をかくこともある多汗症。自律神経の乱れなどで起こると言われていますが、はっきりとした原因はまだ分かっていません。
しかし1つ言えるのは、遺伝によって発症する可能性があるということです。遺伝すると言われている疾患には、多汗症以外にも高血圧や脂質異常症などがあります。多汗症はどれくらいの確立で遺伝するのでしょうか。
ここでは多汗症と遺伝子の関係性から一般的な原因、治療方法までご紹介します。
多汗症が遺伝するのか知りたい方はもちろん、どうやって治療するのか気になる方もぜひ参考にしてくださいね。
Contents
多汗症とはどのような病気?
そもそも多汗症とはどのような病気なのか、基本的なところから見ていきましょう。ワキガとの違いも一緒にご紹介します。
多汗症の症状
多汗症の代表的な症状は次の通りです。
・じっとしているのに滴るほどの汗が出る
・緊張すると余計に汗が噴き出る
・急に汗の量が増えてきた
・汗染みができるので好きな服を着られない
・汗が気になって手をつなげない
このように多汗症は、汗がきっかけとなってさまざまな害を私たちの生活にもたらします。
原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版によると、次の項目に2つ以上あてはまる方は、多汗症と診断されます。
・最初に症状がでるのが 25 歳以下であること
・対称性に発汗がみられること
・睡眠中は発汗が止まっていること
・1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
・家族歴がみられること
・それらによって日常生活に支障をきたすこと
自分が多汗症かどうか分からない方は、この項目をチェックしてみてください。
医療機関を受診すると診断が貰えるので、一度皮膚科を受診しても良いですね。
ワキガとの違い
多汗症とワキガは、時おり混同されることがあります。しかしまったくの別物ですので、しっかり区別しておきましょう。
とにかく大量の汗をかく疾患です。エクリン汗腺からの発汗が関係しています。汗をかいたまま放置すると雑菌が繁殖するので臭いの原因となりますが、すぐに拭き取れば強い臭いを発することはありません。
アポクリン汗腺から分泌される汗に雑菌が繁殖することで強い臭いを発するものです。少量の汗でも臭ってしまいます。
汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類があります。全身に広く分布しているのがエクリン汗腺、脇や頭皮、デリケートゾーンに分布しているのがアポクリン汗腺です。
多汗症はエクリン汗腺から大量に汗をかきますが、ワキガはアポクリン汗腺からかく汗が原因です。
アポクリン汗腺は皮脂腺とつながっているので、雑菌が繁殖し臭いを発しやすくなっています。
このように多汗症とワキガとでは、汗が出る場所が違うのです。
ただし、多汗症の汗もアポクリン汗腺から出ることがあります。エクリン汗腺が大きく関わっているだけでアポクリン汗腺からはまったく分泌されないわけではありません。
多汗症の原因
他の疾患が原因で多汗症を発症することもありますが、とくに疾患がないのに発症するケースがほとんどです。
検査しても異常が見られないため、原因が分からない方も少なくありません。また多汗症が遺伝する可能性があることも分かっています。
他の疾患
他の疾患が原因で多汗症の症状が出ることがあります。これを続発性多汗症といい、次の疾患が原因となることが特徴です。
- 循環器疾患
- 感染症
- 悪性腫瘍
- 甲状腺機能亢進症
- 低血糖
- 末梢神経障害
- 不安障害
- 神経障害
代表的な疾患はこのようなものが挙げられます。良くあるのは甲状腺機能亢進症でしょう。甲状腺の働きが活発になることで、少し動くだけでもたくさん汗をかくようになります。
多汗症の症状が気になったら、まずはこれらの疾患がないかどうかを確認することが大切です。
もし何かあった場合は、そちらの治療を始めてください。そうすることで原因となる疾患の治療をすることで、多汗症の症状も落ち着いてくるはずです。
遺伝
両親のどちらかが多汗症の場合、子供にも遺伝する可能性があります。もしもとくに疾患がないのに多汗症になった場合は、遺伝の可能性も疑ってみてください。
自律神経の乱れ
汗を制御しているのは、自律神経です。交感神経が活発になると汗が分泌され、副交感神経が活発になると抑えられます。
健康な方であれば交感神経と副交換神経のバランスが取れているのですが、多汗症の方はこのバランスが乱れていることがあります。
そのため交感神経が過剰に働き、汗が異常に出てしまうのです。
多汗症は遺伝することがある
とくに何か疾患をもっているわけではないのに多汗症を発症した場合は、遺伝の可能性も高いと考えられます。
多汗症の半数異常は遺伝による可能性がある
海外のデータにはなりますが、多汗症を発症した方の60〜65%に家族歴が見られるそうです。つまり家族にも自分と同じように多汗症を発症している人がいるということですね。
両親や兄弟姉妹に多汗症の症状が出ている方がいたら、いでんを疑ってみても良いでしょう。
参考:汗の病気―多汗症と無汗症― Q3 – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
多汗症は常染色体優勢遺伝をする
ある研究によると、多汗症の遺伝子は常染色体優勢遺伝をするのではと考えられています。これは母親もしくは父親のどちらかが多汗症であれば、子供にも遺伝する可能性があるということです。
参考:KAKEN — 研究課題をさがす | 手掌多汗症の連鎖解析による原因遺伝子の同定 (KAKENHI-PROJECT-16790879)
原因遺伝子はこれから解析される
家族歴が見られる多汗症の患者を遺伝子分析したところ、「14q11.2-q13」という部分に原因となる遺伝子があるのではということが分かっています。
ただしまだ確実にどの遺伝子が原因だと分かったわけではないので、これらからの研究が期待されます。
多汗症の治療方法
多汗症の治療は、主に次の方法で行われます。
飲み薬
自律神経の働きを整えたり、汗を一時的にかきにくい状態にする飲み薬があります。他の治療も行いながら飲み薬を続けていくことが一般的です。
飲み薬の中でもプロバンサインと呼ばれるものは、飲むだけで汗をかきにくくしてくれるので、1錠でも持っておくと「これがあれば乗り切れる」と心の支えになります。
イオントフォレーシス
水道水に電気を流し、そこに手足をつけることで、発生した水素イオンが汗腺を塞いでくれる治療方法です。
10〜12回ほど治療を行うと効果が出てくると言われています。
塩化アルミニウム液
塩化アルミニウムを汗が気になる部位に塗るだけで、汗腺が障害されて汗が出にくくなります。
かゆみはヒリつきが起こることがありますが、簡単に行えてお値段も安いので多くのかたが実践している治療方法です。
ボトックス注射
交感神経の働きを抑える作用のあるボツリヌス毒素を注射することで、汗を出にくくする治療です。脇に注射される方が多いでしょう。
1回の注射で汗止めの効果が4〜9か月ほど続くことから、できるだけ長い期間にわたって汗をしっかり止めたい方に人気です。
交感神経遮断術
汗は交感神経が興奮することで出ます。この交感神経を取り除くのが交感神経遮断術です。
神経そのものを取り除いてしまうので、かなり高い治療効果が期待できます。手掌多汗症にいたってはほぼ100%汗が止まると言われている治療です。
ただし代償性発汗といって、汗を止めた部位以外のところの汗が増えてしまう副作用が起きやすいので、手術をするときはメリットとデメリットをよく考えてから行わなければいけません。
ミラドライ
マイクロ波を皮膚の上からあてることで、汗腺を破壊する治療です。脇汗の治療に用いられます。
皮膚を切らないのに半永久的に汗を止められる治療として人気を集めている治療方法です。
ビューホット
皮膚に極細の針を刺し、針先から汗腺にダメージを与えることで汗腺を破壊します。
こちらも半永久的に脇汗を止める効果がありますが、しばらく針の跡が残ってしまうことがデメリットです。
多汗症は遺伝の可能性も高い!発症したら治療を始めよう
多汗症は遺伝する可能性がある疾患です。多汗症をもっている方の60〜65%で家族歴が見られています。
家族に多汗症の方がいるからといって必ず遺伝するわけではありませんが、可能性は高いです。ご家族に同じ悩みを持っている方がいないか聞いてみるのも良いですね。
しかし遺伝するかしないかは置いといて、治療方法はどちらにせよ変わりません。自分に合う治療を見つけて、うまく症状をコントロールしていくことが大切です。