多汗症の治療は手術や外用薬、飲み薬などを使って行うことが基本です。
飲み薬には強制的に汗を止めてしまうプロバンサインに代表されるものと、自律神経の働きを整えて体質そのものを改善していく漢方薬とがあります。
このうちこの記事では、漢方薬について詳しく見ていくことにしましょう。体質に合う漢方薬を見つけたことにより、症状がかなり軽くなった例も実際にあります。
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漢方薬を使う前に知っておきたいこと
漢方薬は汗をかきやすい体質そのものを変えられる可能性があるため、汗で悩む方にとってはまさに希望そのものです。
漢方薬での治療を始めた方の中には「多汗症がよくなった」と、明らかな改善が見られた例もあります。少しでもツライ汗の症状が治まるのなら、試さない手はありません。
体質に合う漢方薬を見つけないと効果がなかなか出ない
まず重要となるのが、自分に合う漢方薬を探し出すことです。漢方薬には何十種類もの処方があります。そのうち多汗症の治療に用いられる漢方薬はだいぶ限られてはいますが、それでも何種類かは試すことになるでしょう。
効果が出るまでに数ヶ月はかかる
汗をかきやすい体質にアプローチしていくため、飲んだからといってその日のうちに汗をかかなくなるわけではありません。少なくとも2週間、長い場合は2~3か月飲み続けてようやく効いてきます。
「この漢方薬で本当に効くのかわからないけど、しばらく飲み続けないといけない」のが漢方薬の大きなデメリットでしょう。ただし合うものが見つかれば得られるものも大きいです。
脇汗にはあまり効果がないかもしれない
多汗症治療のガイドラインを見てみると、頭や顔の多汗症治療アルゴリズムには「内服療法」という文字があるものの、足や手掌、脇には内服療法が記載されていません。
つまり漢方薬をはじめとした飲み薬は顔や頭の多汗症以外には治療方法として推奨されていないのです。
「じゃあ脇汗には漢方薬が効かないってこと?!」と聞かれるとそうでもありません。
漢方薬は体がなぜ大量の汗を出してしまうのか、原因を探って体質改善を目指すものです。そのため合うものが見つかれば汗も落ち着いてくれるでしょう。
ただし顕著な効果を期待するのはやや難しいところがあると言えます。
多汗症治療に用いられる漢方薬
多汗症治療には主に8つの漢方薬が選択肢として挙げられます。
- 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
- 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
- 桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
- 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
この他にもまだ多汗症に用いられる漢方薬はありますが、今回はメジャーとなるこれら8つの漢方薬について見ていきましょう。
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)
防已黄耆湯は、多汗症治療の漢方薬の中でも第一選択薬として扱われることの多いものです。初めて漢方薬で多汗症の治療をする場合は、この防已黄耆湯から飲みはじめてみましょう。
もし防已黄耆湯を2~3か月飲んでもとくに体の変化がない場合は、この後に紹介する他の漢方薬を試してみてください。
防已黄耆湯は、体の表面にたまっている不要な水分を外に出すことで、汗が止まらなくなるのを抑える漢方薬です。
- 色白で疲れやすい方
- 汗はたくさんかくけど、尿量が以前よりも減ってきたと感じる方
- むくみやすい方
これらに該当する方はとくに防已黄耆湯の使用が適していると考えられます。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
柴胡加竜骨牡蛎湯も多汗症によく用いられる漢方薬です。配合成分の1つである牡蛎が体を冷やす働きがあるので、のぼせやすい方にも使われています。
- 精神的な不安がある方
- みぞおちがつかえているような感じがある方
- 動悸や不眠がある方
このような症状がある方に使われている漢方薬です。不安や不眠など精神的な症状にも使われる漢方薬ですので、ストレスから多汗症の発作が出てしまう方によいでしょう。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
黄連解毒湯は以下のような体質の方に使用されます。
- 比較的、体力がある方
- 顔が赤くなりやすい方
- イライラしやすい方
体力がある方向けの処方となるので、疲れやすい方には向いていません。体に熱がたまって顔が赤くなっているような方向けの処方です。
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
体に熱がたまると、熱を外へ追い出そうと体は水分も一緒に外へ出そうとします。その結果、大量に汗をかいてしまうのです。
白虎加人参湯は体内にこもっている熱を発散させることで、汗をかきにくくします。
- のどの渇きがある方
- 体がほてっている方
のどの渇きがあり、便秘していない方が白虎加人参湯の対応です。のどの渇きと便秘の両方がある方は、この後に紹介する桃核承気湯を選びましょう。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
口渇と便秘の両方がある場合は、こちらを選びましょう。下半身の血流が悪化することで下腹部に熱がこもっているような方に使用されます。
- 比較的体力がある方
- のぼせて便秘しやすい方
- 口が渇きやすい方
体力がある方向けの処方です。
桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)
桂枝加黄耆湯はなかなか市販では売っていないようなので、こちらは病院で処方してもらうとよいでしょう。
漢方では体の表面を流れるエネルギーの巡りが悪くなると、汗が出やすくなると考えられています。桂枝加黄耆湯は体の働きを改善することで、汗を抑えていく漢方薬です。
- 体力が低下している方
- 風邪を引きやすい方
- 皮膚は乾燥しているけど汗をかきやすい方
このような体質の方に向いています。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
体力がなく疲れやすい方によく使われる漢方薬です。術後の体力回復に用いられることもあります。
補中益気湯は不足したエネルギーを補うことで、汗腺を調節する機能を高めて汗を抑えていくものです。
- 疲れやすく食欲があまりない方
- 胃腸の働きが弱い方
- 貧血気味の方
このような体質の方に使用されます。
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
手足がほてり、不眠や疲労がある方の多汗症に桂枝加竜骨牡蛎湯は使われます。
- 体力がなく疲れやすい方
- 頭痛やのぼせがある方
- トイレが近い方
エネルギー不足で疲れやすい方によく使われる処方です。不眠症や小児の夜泣きなどにも使われています。
まとめ
漢方薬は汗をかいやすい体質そのものを変えて治療していくものです。十分な効果が出るまでにはやや時間がかかってしまいますが、漢方薬によって多汗症の症状が落ち着いた例もあります。
対症療法で汗を一時的に止めるのではなく、汗をかきにくい体質へと導いてくれる漢方薬はうまく多汗症の治療に活用したいですね。
漢方に詳しい医師のいる病院に行くと、体質に合った漢方薬をしっかり選んでもらえるでしょう。病院に行きづらい方は市販の漢方薬でも構いません。
自分に合うものを探して続けてみてください。